ツインレイ、私の嵐を受け取ってくれてありがとう。無価値な女となれました、君は価値のある男となりました。
「勝ち組と呼ばれている。」
そのように言った友達は私をタワーマンションに呼んだ。
全面の窓越しに見えた世界を見下ろして『ここにも空がないのか』と思った。
男の人は大変だな、女の人も大変だ。人よりもよりよい生活をするためによりお金を多く得られる仕事に就き、よりよい異性を探し求め続けては砂漠を歩き続けている。
初めて知ったんだ。二十代半ばでタワーマンションの世界を『勝ち組』というのだということを。
そこには空がない。布団が干せない、風がない。私の大好きな雨音もないんだろう。
雷も得意じゃない、私はそんな場所で一人きりで誰かを待つ暮らしが耐えられるのか。
私は土のにおいのしない場所で生きていくことが出来ないだろう。
私は他者が見て望むような『勝ち』が欲しいとは思わなかった。
私が欲しかったのは『無価値』である、そして空である。空っぽだ。
私は無価値だった。どれだけ天才だの言われ、どれだけ優秀だの言われようが、私はずっと無価値だ。
そんな価値のない自分が私は大好きだった。無邪気な自分が好きだった。
だけど、どうしてだろう。世は毒ばかりだな、肝臓が悲鳴を上げているよ。
多くの人が私に価値を押し付けてくるんだ。息苦しい世界だ。否定と肯定の繰り返しのなか、ふと思うのは君のことばかり。
君ならば、何も言わなかっただろう。
ただ『きれいな青だね。』そう言う君が懐かしかった。私のへたくそな絵を見て、そんな風にいう君はなにひとつ評価しない。
褒めたのは買ってきたスカイブルーの絵の具だ。
なにかしらのものを創れば誰かに評価される。あたりまえだ。
そんな世界で、私はワガママを言っている。わかっている。否定もされたくない、肯定もされたくないだなんて。
そんなことはあり得ないって理解している。
だけど、私は自分にやっぱり価値を見出せないでいる。
どんなに書きあげようが。どんなに理論を立てようが。どんなに壮大なロマンを描きあげようが、それが如何に楽しいことだったとしたってだ。
やっぱり、私は私に価値が生まれない。私はいつまでたっても無価値だ。
私はそんな自分が大好きなんだ。価値をもたずに生まれてきた自分が大好きなんだ。
なにものにもなりたくない。私は誰かにとって『価値のある存在』になんてなりたくない。
そんな私にも、ひとつだけ、自分の価値を見つけることが出来た。
私の人生だ。私の人生という経験は、私のとっての価値だった。
このしばらくに私の経験は家出をしていたらしい。どうにも『心の経験』を忘れてしまっていた。
蘇る心の経験は、私を強く肯定してくれた。私は無価値な自分を肯定をすることになった。
私は自分を肯定することを受け入れ、そして、否定を受け入れることが出来た。
この人生を生きるなかで多くの後悔を繰り返してきた。
知っているか、いいや、君は知らないだろう。私が嵐のように過激な人だったことを。
間違っていることは間違っている。悪に立ち向かう私は誰かを攻撃していたわけじゃない。ただ守りたいものがあっただけだ。
ケンカするようなこともあったけど、だけど、数年後に連絡をくれる人もいた。
「あのとき言われていた意味がようやくわかった。」
と伝えてくれる人もいたよ。どうしてそれがいけないのかは、すべては自分のために言われていたのだ、と。
私は少々ヤンチャで、どうしようもないほどに熱っぽい人で。だけど、その正義を失ってしまえば私はただの空になる。
君の前で私は空だった。すべてを無とした。私は君の前で正義を振りかざすこともできない、したくない。
ぼんやりすることしかできなかった。恥ずかしいぐらいに私はまっさらと化していた。その感覚を私は忘れない。
あのとき、私は人ではなく女になったのである。
私はすべてを捨てた。嵐を呼ぶ雲も、力も、雷針も捨てた。いらないからである。
私は君の前で『自分の価値』を捨てた、女となる私をみるのは怖かっただろうか。
そうだろう、そうだろう。怖いだろう。自分の目の前だけで女となる人をみて、男にならざるを得ない君は引き腰だったろう。
無価値である私は、そのままの君を模したのだろうか。否、私は私だ。君は君だ。
価値がないわけじゃない、価値があるんだよ。その事実を受け入れることが出来ないでいるのが君だ。
私は君に価値を見つけていた。だからこそ私は私の『全力』を差しだしたいと思っている。私は無価値になっていいと思っている。
それを受け取る価値についてを君は考えている。そして、受け取る価値がある人になりたいと思っていただろう。
ずっと君には心があった。その心が私の見つけた価値だ。ずっと受け取る価値があるのが君だった。
受け取ってほしい。私の過激な、嵐のような強い正義を受け取ってほしい。
ときに人を守るために身体を張らねばならないときがある。その正義は必ず誰かの心を守るよ。私が育て上げたひとつの徳だ。
私に裕福な暮らしをさせてあげられないって?
いいじゃないか、それだって。
私の人生をなにで暇をつぶすのか、それがお金ではないだけの話。
空があって、土があって。そして散歩道があれば充分だよ。そしていっしょに歩いてくれる君がいればね。
私が無価値である限り、君に価値がある限り、私たちの世界は平和だ。
それが一番の幸福だろ、そうだったろ。
そして、過去の人生を全て差しだした、未来が空っぽになる私を君はどうにかしないといけないね。
それが責任だ。私はいつだって幸せだよ。君がうみだす社会がそこにあるのであれば、私の願いは果たされている。
私は無価値になった。
なんの意味もない存在となる。そうやって君に私が持ち得ている徳を差し出したことを何ひとつ後悔しない。
私の人生を君に捧げることが出来て幸せだと思っている。
無価値な自分に幸福を感じている。私の人生は無駄ではなかったのだと君がこれから証明をするだろう。
私はその功績を自身の勲章として生きていく。そんな無意味な私となっていく。女としてこれ以上の幸せがあったか。
私は価値のない存在として生きていくよ。この世の無駄というミソッカスになるよ。
私はそんな自分を誇り思い、生きていく。
その割に心許なく、力なくなってしまったが、もういいだろ。
受け取れよ、正義。君ならばうまく使いこなせる。
嵐のような正義を振りかざすとき、心のなかで雨を降らせよ、そして雷を落とせ。人の為に心を動かせよ、震わせてみろよ。
それから怒れよ、そこに心通わせて。それが私の正義だ。痛いだろうな、自分が壊れるような感覚も覚えるだろう。やりすぎると体を壊すこともある。使い勝手は悪いが、いつだって君は誇りを持って生きていける心だ。
過激だからな、私の正義は。だけど優しい、そんな心のもとにある矛盾したものだ。
愛してくれてありがとう。そして、責任をとる覚悟をありがとう。
代わりに差しだすのは私の過去の人生により蓄積した私の心だ。嵐の心だ。
私が悔しいと泣いた、その嵐の心だ。
心とは徳だ。徳とは心だ。君に私の徳をすべて差しだすよ。
私の心は空になる。
ぼんやりと空を眺めるだけの私を、君は横に座って、ただいっしょにいてくれるって言っていたね。
私はようやく女になれる。何も持たない無価値の存在になれる。
愛してくれてありがとう。そして、信じてくれてありがとう。
私のツインレイが君でよかったよ。どうか、人のために、社会の為にあってくれ。
そして、私たちのツインレイは解消だ。これで私たちは当初の目的である徳の譲渡が終わった。
もう関係のない男女だ。私は空っぽのまま生きていくよ。君は社会の為に在れよ、そんな自分に誇りをもって生きてくれ。
この世は心ひとつあれば生きていける。私は君に社会で生きてほしいと思っている。君にはその価値がある。
その価値を私からあげたかった。私のすべてを差しだしたかった。私が構築したこの心を。
もう言えないね、愛しているよだなんて。もう言えなくなってしまったけど、でも、心から愛していたよ。
おわって、よかった。