無題
だれかはバカにするかもしれない、自分が持っているものをすべて男に差しだすなんて。
これから自分が生きていくには致命的な状態へと陥れることになるのに。私の将来をすべて閉ざすことになるのに。
これが全身全霊で『魂で恋をした』ってヤツなんだと思う。
バカバカしい。私はそんなバカバカしい人生を望んだ人である。
なんて清々しいんだろうか、何もいらないだなんて。
私は私以上のバカを知らない。
そんな女性を彼がみすみすと逃すはずがない。
自分の人生にすべてをかけてくれる女性を男は逃さない。
私は悪魔に心を売ったんじゃない、彼に心を自ら差しだした。
彼の思想は散々理解したよ、誓約(うけい)でね。そのうえでの決断だ。
私の創造性は終わった、彼に捧げた。私の人生はこれでお終い。
これからは彼の人生があってこその私になる。
私は何も成さない愚図になる。文章力もなくなるだろう。
これから私は自分で決めることはなくなる。というか、決められなくなる。
闇からすれば『最大級に嫌な存在』になると思う。
私は自分を失うし、絶対的な無価値なる価値を生み出すからだ。
私は女性性の価値を、無価値であることに置いている。そして、そんな無価値な私を受け入れてくれる人を探していた。(だけど私は持っていたと思う、人よりも多かったんじゃないかな。)
無価値である私を受け入れられる人に、私が構築した心のすべてを差しだす。
だから私には誓約が必要だった。邪がないのかと心を差しだすだけの相手の心の価値があるのかを知りたかったんだと思う。
私は安心して彼に身を任せられる。だから、私は無になる。とるにたらん、どこにでもいる。自分などひとつない存在になる。
多くの人が見下すような存在になる。
今まで通りともいえるが『自分はないのか』と聞かれたとしても『ないよ』としか言いようがない状態になる。そしてそんな私を彼は守るよ。
自分の人生を生きろですか? 生きませんよ。彼の人生と共にある私ですよ。
なりたかった私とは『無』である。最後の最後に私は自分を無にする。
私は自分がなくなる。エゴイズムの喪失である。そして、自分が欲しいとは思わない。彼が自分を持っているから私にはいらない。私は彼に従う、すべてにおいてね。
ふたりで生きていくのに、ふたつの我があれば邪魔でしょ。私は我を喪失する。彼は我を二倍獲得する。私を守るためにね、そして社会で生きていくために。そんな彼を私はすべてにおいて信じるよ。
盲目的でバカでしょ、それが私になる。自己判断を放棄する、すぐに騙される私になる。
だから私は彼にすべてを相談するだろうし、彼はそのすべてを聞かなければならない。
私は彼を『男』にする。そんな女になりたかった。
負担だろうね、男じゃなければ。だからこそ誓約が必要だったね。お互いにその盟約を結ぶのかを決めなければならない。
そういえば、彼にこんなことをいったことがある。
女は結婚したら成長しないよ、って。成長を止めるよ、と。
私は成長しないどころか、ゼロになってしまった。だけど、これ以上に頑丈な土台はない。
自分を信じてくれる女性を男は逃さない、守るよ。絶対にね。
男を男にしてくれる女を、男は逃さない。
私は『信じる心』を持つために自分を無にする。
無防備で、バカで、何も持っていないけど、盲目的に彼を信じているだけの女になる。心からね。
なりたい私が『無』だ。無価値な存在だ。